終の住処と思っております



父の好物は沢山ありますが、その中でもヤクルトは長期にわたって強い関心を持っている飲み物です。



ヤクルトレディーさんが飲料を届けてくれた日の午後、
母のお伴をして父に会いに行きました。



車椅子に乗った父が、スタッフに付き添われ会議室に入ってきました。



ニコニコ笑っている父に
「だ〜れだ?」
と、母が問うと
「あーーー。」
と、父は、不安そうな顔をしました。
閉じている目の奥では、眼球がクルクル.クルクル.回っていることが見て取れます。
誰なのか真剣に考えています。



「あぅ…ヤクルトの人じゃ。」
と、父がボソッと言いました。



母の小脇にヤクルトが有ることを気付いたようです。



私と母は顔を見合わせて笑いました。
父は、私達を見て失礼の無い答えを言えたことに安堵している様子です。



「私を忘れて、ヤクルトレディーじゃ言よったねー。」
と車中、母が言いました。



最近の母は変わりました。
以前の母ならば
「違います。それくらい覚えてないん。ワ・タ・シ・です!」
と、きつい言葉を発していたでしょう。



母の言葉に堪え兼ねて父は山奥に入った事があります。
結局、一人で帰って来れず、消防団や近隣にご迷惑をお掛けしたのですが…。



母は、丸くなっています。
と、安心していたら…。



施設から電話がありました。
「私共…配慮がいたらずに申し訳ありません。」
と、謝罪でした。



え何?
戸惑う私です。



よくよく話を聞くと、低栄養を疑う、トイレの介助、父の肌着や窓の明るさ、時季外れのシューズの件などの苦情を その後、母がしていたようです。



「母の言い分をサラリと聞き流してください。終の住処と思っております。今後も宜しくお願い致します。」
と、私は、謝罪に伺ったのでした。

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