犬が容赦なく私の足首に次々襲い掛かってくる。

最後にリスクを冒したのはいつですか ? 結果はどうでしたか ?



夫がサラリーマンを辞めて不意に帰ってきたのは、30数年前のこと。



しとしと雨の降る日だった。
私は、早朝4時、バイクで新聞配達をしていた。
終盤になりナイロンを掛けた新聞が無くなった。
工業団地のポストは比較的新聞が湿りやすいので、後の数件分をナイロン袋に入れようと ある一画に差し掛かった時バイクを止めた。
すると、数匹の犬に囲まれた。
「ウゥーーーーーーー。」
と、うなる鳴き声。
暗がりの中 白く光る牙。
私を取り囲むようにじわじわ寄ってくる。
私はバイクにまたがり必死で走った。握ったグリップをしっかり回し速度を上げた。
犬達は、容赦なく私の足首に次々襲い掛かってくる。
左足でギアを代えると即座に両足をVの字にハンドル程の高さまであげた。
私は、その格好のままスピードを上げ、直進するしかなかった。
犬の目線は、すきあらばいつでも飛びつこうと私の足に向けられている。
一番大きい犬が最後まで追いかけてきた。
何度目かの交差点を抜けると、ピタッと犬は追いかけてこなかった。
縄張りがあったのだろう。
私は犬たちの領域を荒らしたのだった。



逃げ帰った私は、あの区画に差し掛かったら立ち止まってはいけないことを所長から知らされた。
犬の必死の形相がいつまでも目に浮かぶ。
負けたくは無かった。
立ち止まるわけにはいかない。
しんなりした奥様では生きていけない。
もうちょっと強くなりたいと意欲が出てくる。



再度挑戦!
工業団地の塀に埋め込まれたポストに、走行しながら足にパンと打ち付けた新聞を瞬時に片手で三つ折にして投げ込む。
犬のうなり声を聞きながらただひたすら突っ走り、その並びを同じパターンで5件届けて完配した。
工業団地を無事抜けた時、喜びが湧いてきた。



その後十余年、新聞配達を頑張った。
何事も喜びが無いと前進しないものなのだろう。
リスクに魅せて魅了する喜びがある。
今となっては、なんとまぁ変な喜びだなぁと思う。



リスクを負っても、結果は成功だった。
安心、安全、安定と言う“安”の字とは無縁かと思われるような生活だったが、
わずかでも決まった日に決まった額が確約されることは、子育て中の私には、心が落ち着く唯一の時間だった。

.

広告

犬が容赦なく私の足首に次々襲い掛かってくる。」への5件のフィードバック

    • なんらかの力になりましたか?
      家計に潤いを求めているといっても、あの経験やリスクをもう背負うことは出来ません。
      子供達を預けることなく、自分が育てる手段のひとつでした。子どもたちと昼のんびりして、寝ている間に収入を得ることができましたからね。
      子供を大事にし続けることの意味を履き違いしていたのですよ。当時、子供との向き合い方がまだまだ分からなくて新米ママでした。今ならわかります。どれだけ長く関わったかではないことを…。
      頑張った理由は、造作ない ただそれだけです。

      いいね: 3人

      • 私も履き違えていたかなと今振り返るとそう思います。
        子育てダメダメだった私は、孫を育てるのも自信がないのです。娘は、私とは随分と違う育て方をしているので、娘の方針に従っていくのみです😓

        いいね: 1人

  1. 野良犬の縄張りだったのでしょうか?バイクに乗っていても追いかけてくるのは縄張り意識が強かったんでしょう。
    まるさんの頑張り伝わってきましたよ。それがあったから今があるんでしょうね。

    いいね: 1人

    • ありがとうございます。
      変なところを頑張るんです。
      実は、当時、パンの耳を持って子ども達を連れてこの工業団地へ行ったんです。
      昼間の犬達は、ちっとも怖く有りませんでした。パンの耳をチラつかせると寄って来ました。パンの耳がなくなっても人懐っこくついて来る仔犬を一匹連れ帰りました。名前はコウタです。(笑)買っていないのにコウタ!

      いいね: 1人

コメントを残す

コメントを投稿するには、以下のいずれかでログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中