ヒロちゃんの日記

 
午後4時15分になると さっちゃんがゴミを集めに来てくれる。
さっちゃんを前にすると 私の世界はとてもチッポケなものなので いつも 私が聞き役。
さっちゃんは 実のお姉さんが心臓病で亡くなった後 1年前からヒロちゃんという三十○歳の甥っ子と同居している。
障害者なので歳相応の事が出来ず 今まで一人暮らしだったさっちゃんには負担が大きいらしい。
昨日も
「ねぇ聞いてくれるぅ!」
と、さっちゃんがソファーに座った。
「私も 生八つ橋が好きなんよ。」
生八つ橋?今日は好きな食べ物の話・・・と思いきや
「ヒロちゃんのお世話をしよんのは私なんよ。それなのに姉さんにしかあげんのんよ。」
「やっぱり母親がえんじゃねぇ。」
と、寂しそう。
 
さっちゃんの話
ヒロちゃんは移動できる小さなお仏壇を自分の部屋に置いてある。
お盆前からその周辺はどんどん賑やかになってきた。
毎日お供えものを買い足しているのでお菓子とお花で写真が隠れる程。
さっちゃんは 毎朝 ヒロちゃんに食材の買い物を頼んで仕事に出掛ける。 
仕事から帰ると 頼んであった食品が冷蔵庫にちゃんと収まっているけれど やはりお仏壇も一段と賑やかになっている。
さっちゃんの仕事が休みのある日。
その朝は、ヒロちゃんに買い物を頼まなかった。
ヒロちゃんはいつも以上にそわそわしていて、昼過ぎに
「特産品売り場 見つけたねん。」
と、ぼっそり さっちゃんに言いに来た。
買い物は済ませたばかりだけど 思いついたものをポンと頼んだ。
 
その日の 《 ヒロちゃんの日記 》
 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
部屋を出て 部屋に入る 
 
部屋を出て 買い物に行った
さっちゃんが大根買ってきて ゆうたねん
母ちゃんの好きな 生八つ橋こうてきたねん
 
 
ヒロちゃんは30年近く毎日日記を書いている。
さっちゃんは、何気なくそれを見ていると母親の葬儀の時の日記が目に留まった。
たった三行だけど さっちゃんは泣けて泣けて しばらく泣いて・・・ 
ヒロちゃんは普通の人以上に 暖かいんだと気がついた。
私もその話を聞いて 泣けて泣けて 
おそらく真っ赤な目をして、その夕刻、買い物をしていたと思う。
日記の内容は秘密。また泣いてしまうから・・・・・ 
 
 
・・・後に追記・・・  《 ヒロちゃんの日記 》
 
ごめんなさい 母ちゃんが死んだのは僕のせい・・・
それなのに 僕は生まれて良かったと思っています
ごめんなさい  ごめんなさい  ごめんなさい
 

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